2018/6/2-6/3 赤谷山その他もろもろ
今回もいつもと同じだと思っていた。
『赤谷(あかたん)山って剱岳の展望がめっちゃいいらしいで。日帰りの山みたいやけど、片道5時間くらいやしどっかでテント張ってゆっくりするのはどう?』
『へ〜いい感じやん。そこにしよ。』
軽い気持ちで赤谷山に行くことにした。
金曜の夜に家を出て夜中の1時半くらいに馬場島に着いた。
すぐにテントを張って、片道5時間なら8時出発くらいでいいだろう、とゆっくり寝た。
翌朝起きて準備して、いざ出発!
登山口に向けて歩いていると、山菜採りのおじさん2人に出会った。
片方のおじさんは数年前に赤谷山に登ったことがあるらしい。
『そりゃあ、えらかったで!草取り(山菜採りのこと)なんか比べもんにならんわ。でも、剱がすぐそこにみえるでええぞ。』
それを聞くだけでわくわく!
が、しかし、次の週末に控える残酷マラソンに向けていつもは持ってこないカメラの三脚やら、トレーニングのために荷物をたくさん持って来たおかげで、足取りは軽やかとは到底言えない。
すぐに前を歩いていたおじさんを見失った。
取水堰堤が登山口。
らしきところに来たが登山道が見つからない。
『あ、ここに矢印あるで』
赤いペンキでコンクリートに池谷山と書いてあった。その矢印に従った。
登山道は最初からなかなか険しかった。
道は細く、草が無造作に生え、人はほとんど歩いていなさそうだった。
マイナーな山やから、やっぱり来る人少ないんやなあ、なんて言いながら進んでいった。
1時間ほど歩いたところで雪渓に出た。
が、雪渓に出た途端それまでわずかながらも目印のピンクテープや危険箇所の回避のためのロープがあったのに、パタンと途絶えてしまった。
人の歩いた形跡が見つからない。
地図を見ても分からない。
分かることは本来なら北東に進むべきところが、真東に向かっていること。
藪漕ぎを続け、それらしき道を探した。
1時間ほど迷子になったが、わからないので結局雪渓を稜線まで詰めて行くことにした。
ちょうど見えているコルのところがブナクラ峠だと信じて進み始めた。
コースタイムでは戸倉谷出合から1時間半ほどでブナクラ峠となっている。
雪渓の上には石や土がのっていて意外と歩きやすい。
大きなカッコいい岩が雪渓の脇にあって亮介くんが見に行った。
最短ルートで直上したかったが、とりあえず同じ方について行った。
『結構簡単そうな岩やわ』
そんな話をしていたところだった。
『ゴロゴロゴロゴロ!!!!』
斜面の上を見ると人間ほどの大きさの石がこちらに向かって来ている!
とっさの判断で近くにあった岩の陰に隠れた!
亮介くんは隠れずそのままだった。
『バーン』
私の隠れていた岩に落ちて来た石が当たって背中ギリギリのところを通過し、バウンドして下まで落ちて行った。
亮介くんは奇跡的に何も当たらずに済んだ。
『やばいやん!今の当たったら怪我どころじゃなかったで!』
『うそ?!てか、めっちゃ怖いんやけど!!』
そんなことを話していたらさっきよりも更に大きな音が上から聞こえて来た!
『ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロー!!!!!』
岩の陰に2人そろって飛び込んだ!
その瞬間数え切れないほどの大きな石や砂や砕けた小石たちが頭の上を通過して行った。
石と石がぶつかって火花のような匂いがした。
背中に小石がいっぱい当たった。
どうしたらいいかわからなくて手も足もガクガク震えていた。
とりあえず脇の小高い稜線状になっているところに上がった。
ここなら大丈夫だろう。
『どうしよう〜あんな岩が落ちて来たら死ぬやん。たまたま岩があったから良かったけど、雪渓の上そんな走れんで』
それまで、カラカラと小さな岩の落石はあったけど、崖の下だけで、真ん中を歩いている分には問題ないと思っていたが、真ん中さえも危ない。
とりあえず、となりの谷に移ってそっちを歩くことにした。
雪渓が綺麗だからきっとさほど落石もないはず。
歩きやすいと思っていた土や石がかぶさった雪渓は落石のためだったんだと思うと、チンタラチンタラ歩いていた自分たちにゾッとした。
本当に危機一髪のタイミングだったと思う。
雪渓はどれだけ上がっても先が見えない。
運がいいのか悪いのか、昼からはガスがかかっていて真っ白で先が見えない。
高度が上がるにつれて斜度が急になっていく。
前の見えない頭上から岩が落ちて来たらどうしよう?滑ってこの雪渓の下まで落ちてしまったらどうしよう?
そんなことを考えていると、もしかしたら今すごく危ないことをしていて、もしかしたらとても死に近いのではないかと思えて来た。
となりの谷ではまた落石の音が地面をつたって伝わってくる。
もしかしたら死ぬんじゃないかと本当に思えて来て、怖すぎて涙が出て来た。
まだやりたいことがあったのに。やらなきゃいけないことがあったのに。
親や周りの人に迷惑がかかってしまう。
それでも亮介くんはいつも通りだった。
『何かあったら助けてあげるから、もうちょっと頑張り。今もう(標高)2000メートルやで稜線もあとちょっとやで!』
『助けるって、さっきみたいな岩が落ちて来たら2人とも死ぬやん!助けれるわけないやん!』
怖かったけど、稜線に上がる以外ここを抜ける方法はない。
明日の下山道はどうするかは稜線にでてから考えるしかない。
何とか高度を稼いで行った。
気付くと空が晴れて来た!
『あ!稜線!』
やっと空が見えた!
看板か何か分からないけど、キラリと光るものがコルに見えた。
とりあえず助かったと思った。
落石の恐怖がこんな怖いものだと思ってもみなかった。
コルまで行くと光っていたのは誰かが落としたピッケルだった。
その横にお地蔵さんがいた。
やっと人の気配を感じ、安堵の念が溢れてきた。
こんなに怖い山は今まで(ボリビアのイリマニを除くと)なかったように思う。
お花畑が広がっていて天国のようだった。
携帯でGoogleのGPSを見ると"池谷山"と近くに書いてあった。(谷の中では電波もGPSも全く入らなかったのだ)
『やっぱり!方角がおかしいと思ってたんや』
私たちは1つとなりの谷を歩いていたのだ。
ブナクラ峠だと思っていたのは、大窓だった。
最初の分岐の時点で道を間違えていたのだ。
あまりに地形が似ていたから何も気づかなかった。
とりあえずそうとわかれば、当初の目的である赤谷山に向かうだけだ。
しかし、なかなか距離がある。
ひとまず行けるところまで行ってテントを張ろうということになった。
稜線上は簡単と思っていたがそこからもなかなか辛かった。
藪漕ぎ、ノーロープ・ノーマットのクライミングまである。
昼ごはんもまともに食べていなかったから、おなかが空きすぎて力が出ない。
藪漕ぎは本当に辛すぎて、ヘロッヘロ。
行動食を食べた瞬間にエネルギーとして使われて行くのがわかった。
ルートファインディングが難しすぎて時間がかかった。
ようやくピークに立った時、下を見ると素晴らしい雲海が広がっていた。
『あ〜生きてて良かった〜』
予定では片道5時間だったが、10時間以上経っていた。
何とか白ハゲの上まで行ってテントを張った。
剱岳がこんなに近い!(今はまだガスの中だけど)
最高のテン場だった。
この時ばかりは迷子になって道を間違えて良かったと思えた。
テントを張ってご飯を食べて寝た。
すぐ眠りについた。
翌日は夜明けと共に起床。
剱岳が丸見え〜!やば〜!
昨日の疲労感は綺麗さっぱりリセットされていた。
今日も赤谷山までは藪漕と雪渓のオンパレード。
それでも、いつまでも見える剱岳、後立山、猫又山、素晴らしい景色と過ごしやすい気候できもちのいい山だった。
(天気が良すぎて帰ったら黒焦げに焼けていた)
赤谷山でコーヒーを飲んで下山した。
(赤谷山の登山道もかなりわかりにくかった)
今回久しぶりに山の中で辛い思いをした。
本当に反省点の多い山だった。
こんな山になるとは思ってなかった。
『落石注意』とか軽く思ってたけど、ほんまに気をつけなあかんなって思ったし、山を登る時には落石しないように歩かないといけないなと切実に思った。
とても運が良くて、本当にラッキーな山だった。
はあ〜生きてて良かった〜